研究紹介

研究方針

私の主要研究分野はネットワーク科学数理生物学です.この2つには重なりもあります.2007年位までは,それぞれの分野(や他の分野)において理論研究のみをしていました.2008年頃からはデータ解析や,データ・実験に基づく数理モデリングもしていて,年々そのような研究の割合は増えています.世界的にも,これらの2つの分野でそういうデータ・サイエンス化の傾向はあります.

ネットワーク科学では,専門書や啓蒙書を数冊書きました.ソーシャル・ネットワーク,インターネット,脳,交通網,食物網など,色々なネットワークが世の中にあります.そのようなネットワークのデータや数学,あるいはネットワーク上で起こる情報伝播,同期,輸送現象などを調べます.グーグルの検索エンジン,世界的なインフルエンザの流行予測,企業組織の改善のコンサルティングなど、実社会への応用例も多くあります。

数理生物学は,広義の生物の問題を,広義の数学を用いて明らかにしたり,その応用を探索しようとする分野だと思います.広義の生物の問題には,分子レベルのことは当然含まれるし,生態系,人の社会の中での感染症の伝搬なども含まれます.その中で,私は,人や動物(小さい方ではアリや線虫まで)の集団・社会・ネットワークの中における行動を研究することが多いです.協力行動の数理,ネットワーク上の感染症のモデル,行動生物学(アリの集団など)の数理モデリングやデータ解析が含まれます。広義の数学とは,数理モデリングや数値計算(コンピューター)のみによる解析も含みます.

脳画像の解析は,上記両方の分野に一見またがりつつ,それだけではくくりにくい私のもう1つの主要研究分野です.歴史的な理由もあって,日本でも海外でも,脳画像の研究は数理生物学に入らない場合が多いです.私はヒトの脳画像をネットワークとして解析したり(近年、世界では network neuroscience という分野で呼ばれています),他の関係する数理手法で解析するという研究をしています.

大学院生,ポスドク,ビジターとして私と一緒に働くことに興味がある方は,「増田研に来たい人へ」もご覧下さい.

関連書籍

  • ネットワークの科学(啓蒙書)

    • 増田直紀.なぜ3人いると噂が広がるのか.日本経済新聞出版社(日経プレミアシリーズ)(2012).
    • ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムス・H・ファウラー(鬼澤忍訳).つながり.講談社 (2010).
    • 増田直紀.私たちはどうつながっているのか.中央公論新社(中公新書)(2007).
    • 増田直紀,今野紀雄.「複雑ネットワーク」とは何か.講談社(ブルーバックス)(2006).
    • スティーヴン・ストロガッツ(蔵本由紀監修,長尾力訳).SYNC. 早川書房 (2005).
    • バラバシ AL(青木薫訳).新ネットワーク思考.NHK出版 (2002).

  • ネットワークの科学(専門書)

  • (進化)ゲーム(啓蒙書)

    • トム・ジーグフリード(冨永星訳).もっとも美しい数学.文藝春秋 (2008).
    • 山岸俊男.安心社会から信頼社会へ.中公新書 (1999).
    • ウィリアム・パウンドストーン(松浦俊輔他訳).囚人のジレンマ (1995).

  • (進化)ゲーム(専門書)

    • 大浦宏邦.社会科学者のための進化ゲーム理論.勁草書房 (2008).
    • Martin A. Nowak(竹内康博,佐藤一憲,巌佐庸,中岡慎治訳).進化のダイナミクス.共立出版 (2008).
    • 石原英樹,金井雅之.進化的意思決定. 朝倉書店 (2002).
    • R. アクセルロッド(松田裕之訳).つきあい方の科学.ミネルヴァ書房 (1998).

  • その他社会・生物関係

    • 木暮太一.大学で履修する入門経済学が1日でつかめる本.マトマ出版 (2011).
    • 亀田達也,村田光二.複雑さに挑む社会心理学 [改訂版].有斐閣アルマ (2010).
    • マーク・ブキャナン(阪本芳久訳).人は原子,世界は物理法則で動く.白揚社 (2009).
    • 山岸俊男.信頼の構造.東京大学出版会 (1998).
    • 巌佐庸編.数理生態学.共立出版 (1997).

  • 脳(啓蒙書、専門書)

    • 甘利俊一監修,田中啓治編.認識と行動の脳科学.東京大学出版会 (2009).
    • 甘利俊一監修, 深井朋樹編.脳の計算論.東京大学出版会 (2009).
    • 外山敬介,甘利俊一,篠本滋.脳科学のテーブル.京都大学学術出版会 (2008).
    • 理化学研究所脳科学総合研究センター 編.脳研究の最前線 (上・下).講談社ブルーバックス (2007).
    • 川人光男.脳の計算理論(特に最初の3章).産業図書 (1996).
    • 銅谷賢治,五味裕章,阪口豊,川人光男編.脳の計算機構.朝倉書店 (2005).

  • 数学や物理(研究の道具として)の独習にお勧めの教科書

    • 田辺行人,藤原毅夫.常微分方程式.東京大学出版会 (1981).
    • 東京大学教養学部統計学教室編.統計学入門.東京大学出版会 (1991).
    • 藤原邦男.物理学序論としての力学.東京大学出版会 (1984).
    • 長岡洋介.統計力学. 岩波書店 (1994).
    • 久保亮五.大学演習 熱学・統計力学.裳華房 (1998).
    • 高安秀樹.フラクタル.朝倉書店 (1986).

  • 研究の心がまえなどの意味で私が共感した本

    • 有馬朗人監修.研究者.東京図書 (2000).
    • 有馬朗人監修.研究力.東京図書 (2001).

卒論・修論の執筆要領

構成

  • 表紙でタイトルが2行以上に渡る場合,改行位置に気をつける(日本語・英語として不自然な箇所で改行にならないようにする).
  • 概要は,他の部分と独立して読めるようにしなければならないので,式番号,文献番号等を入れない.概要で文献をひきたい場合は,"Masuda et al. (2010)" のように書く.
  • 第1章は「はじめに」,1.1 節は「研究の背景」,1.2 節は「本論文の構成」で統一しましょう.1.1節を「研究の背景」,1.2節を「研究の目的」,1.3節を「本論文の構成」としてもよいでしょう.
  • 1.1 節では,専門に入りすぎないように,背景,本論文で扱う内容,等を説明する.見る側は専門家でないことを心がける.説明のための図を入れることは,大抵助けになるのでとてもよい.
  • 「本論文の構成」の節は以下のように書きましょう:本論文の構成は以下の通りである.第2章では,…….第3章では,…….ひとつの文に複数の章の説明をまぜこまない.
  • 第2章以降(結論の章は除く),最初の節 (2.1節とか)に入る前に,その章のプランを数行くらいで説明。
  • 次の章では,先行研究の十分なサーベイを行う.
  • 自分の結果と先行研究をきっちりわける.章わけするのが無難.ただし,卒論などで短めの場合は,1つの章の始めの方の節で先行研究を説明し,後の方の節で自分の提案手法を説明すること,などが自然な場合もある.
  • 結果と考察は別の章(章わけするのが不自然な場合は別の節)にわけて書く.結果の機械的な解釈 (x を大きくすると y が大きくなる、など) は結果であると見なす.結果から類推される社会的・生物的解釈等は考察であると見なす。
  • 最後の章の見出しは、「結論」または「おわりに」
  • 謝辞:規則ではないけど,褒めるのは具体的に褒める方がよいように個人的には思う.つまり「助けて下さった全ての人々に感謝します.」よりは,誰の何に対して感謝するかを書く方がよい.

文章表現

  • 一つの段落は,長すぎても(1ページ以上に渡るとか)短すぎても(一文だけで一段落のものが続くとか)いけない.
  • 接続詞:「しかし」「また」「なぜなら」などの後には,基本的に読点を置く.
  • むやみに現在進行形にしない.している → する
  • むやみに過去形にしない.選んだ方が → 選ぶ方が
  • むやみなカタカナ語は避ける.
    • ケース → 場合
    • シミュレーション → 数値計算
  • 普通に漢字にしないもの(助詞,難しすぎるものなど)は漢字にしない.
    • の為 → のため
    • 出来る → できる
    • 事 → こと
    • 纏める → まとめる
    • 又は → または
    • 故に → ゆえに
  • 日本語でも英語でも,キーワードの太字化,斜体文字化はしない.カギカッコ(「」)や ".." で囲って強調することもしない.
  • 'abc' → `abc'(pdf で見ると,なぜこうすべきなのかが分かる)
  • "abc"(2つのちょんちょんで1文字), ''abc'' → ``abc''(右側は,1つのちょんが2つ)
  • 「〜は重要である.」と書いたら,それだけだと主観的なので,その理由を書く.なぜなら,... など.
  • 例として……などがある.→ 例として……がある.
  • 式や節などの引用
    • 3章 → 第3章
    • 節 2.3 → 2.3 節
    • (3.12) 式 → 式 (3.12)
      LaTeX だと Eq.~\eqref{eq:1}
    • 4 図 → 図 4
    • 図 4.1〜4.3 => 図 4.1--4.3
  • 例えば式 (2.1) の直後のテキストにおいて,「この場合」→ 「式 (2.1) の場合」のように具体化する.
  • 中黒はなるべく使わない.読点で区切る,あるいは項目立てするなどすれば,全く使わないでも書けるはず.
  • 数字やアルファベットは、全角でなく半角で
  • \footnote{..} は使用を避ける.
  • 地の文で半角括弧を使う場合,前後に半角空白を入れる.すなわち、
    "これ(あれ)" → "これ (あれ)" :このように日本語だけの場合,全角括弧を用いて "これ(あれ)" とする方がきれい.
    "(a)$N=100$" → "(a) $N=100$"
    半角 , の後: A,B → A, B
    全角括弧の場合は、前後に半角空白を入れる必要はない。
  • 日本語論文のカンマとピリオド.日本語では全角を使う.一般的には,カンマは「,」と「、」のどちらでもよいし,ピリオドは「.」と「。」のどちらでもよい。全体で統一されていることが大事.ただ,数式や英単語の後は半角がきれいだと思う。
    例:"$a$、" → "$a$, "(半角カンマの後に半角空白を入れることに注意)
    例:"これ, あれ"(半角カンマ + 半角空白)→ "これ、あれ" または "これ,あれ"(全角カンマ)
  • 英語論文では,全角は一切用いず,半角だけで書く.

数式

  • $x=5(y=3)$ → $x=5 (y=3)$
  • 別行立ての数式の末尾のコンマやピリオド:もし別行立てでない場合に全体を通じて読んで,例えばコンマが必要ならコンマを打つ。そうでなければ打たない。
  • 別行立ての数式には,末尾に式番号を付す.
  • 分数:別行立ての数式では \frac{1}{3}, 別行立てでないテキスト内(すなわち $...$)では $1/3$.
  • $1, 2, ¥dots, N$ → $1, 2, ¥ldots, N$
  • 組み合わせの数を表すのに nC2 (${}_nC_2$) を使わない.これは日本表記なので.¥atop で書く.

図,表

  • 数値計算結果などをプロットするとき、Python の matplotlib はよく使われ、強力。 MATLAB(有料)、gnuplot とかでも描ける。
  • 白黒で済む図は白黒にする.線種 (gnuplot なら lt 1, lt 2 など。デフォルトでわけてくれる)、線の太さ (gnuplot なら lw 1, lw 2, lw 4 など)、ないし、グレースケールでも通用するような線の色 (lc 'black', lc 'gray' など) でかなりの区別をできる.
  • 図に無意味な背景色をつけない.白地が一番!
  • 図の解像度が低くないように気をつける.最終的には紙に出して目で確認する.
  • with lines なら default の lw 1 (lw は linewidth)は細すぎなので,最低でも lw 2. lw 8 でも太すぎることはない.
  • グラフの1枚1枚にタイトルをつける(= プロットエリアの上部とかにタイトルを書く)ことはしないのが普通。
  • ラベル等は,日本語を出力しにくいとかの理由で英語で書くなら,(固有名詞以外は) 小文字始まりで.
  • ラベルの英字は,変数名を示すものについては,できれば斜体にする (tex に合致させて,ということ).
  • ラベル等は大きく.大きくして大き過ぎることはないというのが経験則.
  • 線は太く.かなり太くてもよい.細いと印刷したときに見えない.
  • 1つの図の中に subfigures が 2 つ以上ある場合は、(a), (b), ... と番号をふって、(a) が何で (b) が何を表すかといったことは,図の caption(=説明文)で説明する.caption で「図左,図右」とか指し示すことはしない.
  • 他人の論文の図や表は直接載せない.出典を引用したとしても NG. 自分で描き直したものを載せる.
  • ネットワークの図の場合,図の caption で,描くのに用いたソフトウェアを明記する.データのソースも文献を引いて明記する.
  • 図の caption は図の下,表の caption は表の上.

文献引用

  • 学位論文は,雑誌名は省略せず書く.
  • 人名のアクセントに気をつける.tex で出せないアクセントはない.
  • 文系の本などで,他人の文章を長めに引用する(もちろん,出典をつけて)ことがあるが,出典をつければ正当化はされるが,卒論・修論(あるいは,私の分野の学術論文)では行わない.基本的に自分の言葉で書く.
  • 自分が中身に目を通していない文献を引用すること(孫引き)はしない.
  • 2個以上同じ箇所で引くとき,本文中では
    \cite{ref1,ref2} とする.
    \cite{ref1} \cite{ref2} とはしない.
    (\cite{ref1,ref2}) ともしない.

    \usepackage{cite} とすると,文献の本文での現れ方が [1,3,2,4,5] あるいは [1,2,3,4,5] でなく [1-5] となるので必ず用いる.

  • 参考文献リストには色々な書式がある。何を使うかに決まりはないが、ともかく、統一されていることが大事。

専門用語

私の趣味も少しありますが,以下で統一して下さい.

  • ネットワーク関連
    • スケールフリー・ネットワーク (全角の・(中黒)を入れる)
    • スモールワールド・ネットワーク
    • ランダムネットワーク,ランダムグラフ → ランダム・グラフ
    • ノード → 頂点
    • リンク、エッジ → 枝
  • ゲーム関連
    • プレーヤー → プレイヤー

データ等へのリンク

temporal network のデータ

  • SocioPatterns プロジェクトによる学術会議参加者でのデータ
    Isella et al. JTB 2011 で "HT09" として使われているデータ.
    (id1, id2, time) の表の形になっていて、簡単な加工ですぐに使えそう.
    公開されているデータは個人 ID が 1番始まりでなく欠番もある。
    なので,ID = 1~113 と振り直して使用している。

フリーソフト

  • NetworkX
    Python で走る。無料。描画よりは解析が得意と聞く。人気がある。
  • graph-tool
    Python で走る。私はまだ使ったことがないが、描画や、開発者の強い研究分野である blockmodeling に強いと聞きます。

公開セミナー(東大)の記録

Luncheon Seminar 開催記録